彼女と私


ぼんやりあいた、虚ろな眼。

黒くてぬれていた。


まだ生のぬくもりを感じた、

私が、包むように触れると。



私はシャベルで土を掘りはじめた。

土は、ばらっと崩れ落ちては、底に溜まる・・

或る程度の深さに到達するまで、思ったより労力がかかった。

この、小さな体を、埋めるだけにひつような深さ。


彼女を、一本の痩せた木の前に埋めた。





私は、だいぶ弱っていた彼女を看ていた。



その繊細そうな体躯の、
先から先まで、

刺激を与えないように、

まず指先で触れ、

それから手のひら全体で、撫でた。


全身から伝わる規則正しい鼓動、

その合間に、細かな震えを感じた。

近づく「おわり」に対する恐怖なのか。



ふと鼓動が止まった。



その瞬間、それまで固く閉ざされていた眼が、

ぼんやりあいた。


固い意志で、眼を閉じていたんだね。
痛くて、苦しかったから、目を閉じていたんだね。


死んだ瞬間、それらから解放された。





聞けなかった。

見つめあって、感じることもできなかった。

その目で何を見てきたんだろう。



彼女が見てきた世界を、私は知らない。

私が見てきた世界を、彼女は知らない。



誰にも知られなかった。



彼女には流せなかった、涙を、私が流した。


死の瞬間、誰よりも、
彼女を
愛していた。


しかし、
彼女の「幸せ」は、

残されたこの私しか
感じることができなかった。



2006年6月29日午後6時2分 享年?歳 雀、死亡